悪夢の4日間(1日目) -カーボベルデ-
旅のトラブルというものは当たり前ですが突然襲ってくるものです。友人のA氏とアフリカを旅していた私にとっても
それは突然起こりました。しかも私のこれまでの旅の中で最大のトラブルになろうとは。。。
それは我々のアフリカ旅行最後の地であるカーボベルデ、サル島の空港で、最後の別れを告げようとしていたとき
でした。その日、我々は深夜2時の飛行機でアフリカに別れを告げてリスボンへ戻る予定でした。
深夜の便であるため時間を持て余していたので、昼間ガイドをしてくれたJさんのお宅にお邪魔して雑談をしたあと、
サンタマリアのレストランでワインとカーボベルデミュージックに酔いしれ、ほろ酔い気分でタクシーを飛ばして空港に
戻りました。気のよい運転手にチップを弾み、空港ロビーで一休みです。
私「いやぁ、今日も楽しかった。これでいよいよ終わりというのはちょっと寂しいね」
A氏「残念だけどしかたないね。今度は別の島にも行きたいなぁ」
などと旅を振り返りながら余韻に浸っていましたが、ふと見ると空港内のショップはまだ何件かオープンしています。
時間は夜11時を回っていましたが、深夜の発着便が多いサル空港ではお店も遅くまで開いているのでしょう。
さっそく最後のお土産探しをして時間を潰すことにしました。
ショッピングに夢中になっていたせいか、ふとチェックインカウンターを見ると、いつの間にか長い行列ができ、
搭乗手続きが始まっています。
おっと、いけない。と、目当てのお土産を買い、急いで列の後ろに並びました。我々の便以外にも何便か出発便が
あるようで、広いロビーは深夜にも関わらず大勢の人で雑然としています。夜中なのに意外と乗る人って多いんだなぁ。
などと関心しながら、のろのろと前進する列についてようやく順番が来ます。
カウンターのスタッフに「よい旅を」と言われ搭乗券を受け取り、次はすぐ横にあるイミグレーションで出国手続きです。
まずはA氏から係官にパスポートと搭乗券を渡し、パスポートに出国スタンプを押され。。。
と、なると思い込んでいたのですが、係官は何度もパスポートをぺらぺらとめくり、A氏本人をじろじろ見ながら、
やがてイミグレオフィスの中の別な人(たぶん上司)を呼び、A氏のパスポートを渡してなにやら話しています。
ん?なんだろう?なにかすごく嫌な予感がする。と思いながら成り行きを見ていると、やがてA氏はオフィスの中に呼ばれて
いきました。当然ながら後に続く私も同様、やはりオフィス行きです。
まったく予期していなかった出来事に何が起こったのかわからず、ただ呆然としていると、先ほどの上司らしき係官が
いくつか質問をしてきました。
係官「きみらはどこへ何しに行くんだ?」
我々「リスボン経由で日本へ帰るところだ」
係官「ここへは何しに来た?」
我々「観光で来た」
係官「きみらはセネガルから入国しているが、なぜヨーロッパから直接入国しないんだ?」
我々「セネガルからカーボベルデへ周遊する計画で旅をしているからだ」
という具合にその係官は主に旅の目的と、なぜセネガルから入ったかということをしつこく聞いてきました。
それを一生懸命説明しても納得がいかないらしく、やがてさらに奥の取調室?のようなところに連れて行かれ、
荷物を全部出せと言ってきました。当然やましいものがあるはずもないので、それで納得するならと言われたとおりに
荷物を調べさせましたが、それでもまだ納得がいかない様子。
いったい何が問題なんだ!と次第に飛行機の時間が気になり始め、いらいらしながら次は何を言ってくるかと待って
いると、挙句の果ての一言。
係官「きみらを出国させるわけにはいかない。きみらはこの飛行機には乗れないよ」
唖然!はぁ。何だそりゃ。
我々「なぜ?我々は予定通り日本に帰らなければいけないんだ。理由を教えてくれ」
係官「きみらはここからリスボンには直接出れない。来たルートと同じルートで帰るんだ」
我々「どうしてだ?日本のパスポートとリスボン行きのチケットがあり、問題を起こしたわけでもないのに
何故ここからリスボンへ行けないんだ?理由を説明してくれ」
係官「我々のボスがそう言っているのでとにかくここからは帰れない。ダカール経由のチケットを取り直しなさい」
その後何度理由を説明しろと言っても、ボスがそう言ってるの一点張りで埒があかず、セネガルの日本大使館に連絡を取れと
騒いでも聞く耳持たず、そうこうしているうちにとうとう飛行機の出発時刻が過ぎてしまいました。
これはたいへんなことになった。どうすればいいんだ。結局、イミグレの係官は話にならず、
「パスポートは預かっておく、明日朝8時に取りに来い」といって追い出されてしまいました。理由もわからず最果ての国の
深夜の空港に取り残されて、先ほどまでのほろ酔い気分は吹っ飛び、今からどうしたらいいかもわからず、我々は空港の
ベンチに崩れ落ちました。2人とも混乱していて交わす言葉も出ません。しばらくはお互い自分の中で今の状況を整理すべく
ボーッとベンチにへたれこんでいると、リスボン行きの搭乗券を発券したスタッフが我々を見つけて、なぜ飛行機に乗ら
なかったんだ?と聞いてきます。何故って、乗りたくても乗れなかったんだ!
どのくらいボーッとしていたのか、やがて少しは心が落ち着いてくると、とにかく何とかせねばと考える能力も
ようやく戻ってきてました。何か考えねば。そうだ!とりあえず電話だ。
私「A氏。電話。とりあえず日本に電話してみよう」
さっそく夜中の空港を駆け回り、電話とテレホンカードを探しまわります。まだかろうじて開いていた
インフォメーションカウンターや空港の警備員に片っ端から聞きまわりましたが、テレカを売っている場所はもう
閉まっていて買うことができませんでした。警備員の1人が親切に自分の使い残しでよければとテレカを譲ってくれ
ましたが、7度数しかなくとても日本へ通話することはできません。
はぁー。万策尽きたか。いや、そんなこと言ってる場合ではない。何か手を打たねば。
再びベンチに腰を下ろすと、それでも先ほどよりは冷静に事を考えられるようになっていました。
私「とりあえず電話は今はだめだね。夜が明けたら何とかしよう。それからこの国でヘルプしてくれる人を何とか
見つけないとね。でないと言葉も不自由だし自分らだけではきつい」
A氏「そうだね。でもどうする?この国には日本の大使館もないし」
うーん。この国で知ってる人なんているわけないし。。。いや。1人いた!
私「Jさん。ほら昨日ガイドしてくれたJさんだよ」
その日は出発便もすべて終了し、あれだけ賑わっていたロビーもいまや警備員と、翌朝の便を待つのか地元の乗客
らしき人数人が、ベンチをベッド代わりに寝ているだけとなりました。我々も夜が明けるまでこれ以上することも
ないと判断し、それらの乗客に混じってベンチをベッドに一眠りすることにします。不安に苛まれた悪夢の一夜目の
始まりでした。