アラスカ

思い出のチェナを後に

 こうしてチェナ・ホットスプリングスでの楽しい日々が過ぎ、毎晩酒宴を開いてすっかり馴染んだ 仲間ともお別れの日になりました。KさんとMさんは、もう1日チェナでオーロラ観測するとのこと、 Oさんは午後フェアバンクスへ戻り、そこで宿泊するそうです。で、私たちはといえば、いよいよ アメリカ大陸最北端バローへ向かいます。
 私たち「それじゃ、また。どこかの旅先で会ったときには一杯やりましょう」
と別れの挨拶をして手配したタクシーに乗り込み、フェアバンクスへ引き返します。 しかしまだバロー行きの飛行機まで時間があるので、周辺を観光をしながら最後に空港で降ろしてもらう予定です。
 森の中にムースの群を見ながら、まずは高台の展望台へ。ここからの眺めはフェアバンクスの街はもちろん、 その先の大雪原や山々が見渡せ、とても素晴らしい遠望でした。
 ドライバー「どうだい、素晴らしいだろう!ここは俺のお気に入りの場所さ」
 私たち「うーん!素晴らしい!自然環境は厳しいだろうけど、それでもこんなところに住んでみたくなるなぁ」
 ドライバー「そうだろう。俺はロスの生まれだが、この自然に魅了されてこっちに移り住んだんだ。アラスカは最高だ」
このドライバー氏はたくましい体に似合った口ひげを生やした典型的なアラスカンといった感じの人です。 そのあとフェアバンクス市内に入り、ハイウェイを走りながら、
 ドライバー「きみたち、そろそろ腹が減らないか」
 私たち「腹はいつでも減ってるよ」
 ドライバー「ハハハ、よし、それじゃあこれからとっておきのところへ案内するよ。きみらもそろそろ日本食が恋しいだろ」
 私たち「えっ、日本食って?なになに?」
 ドライバー「寿司さ。これから行くところの寿司は最高にうまい」
というわけで、いったいどんなところに連れて行ってくれるのかとても楽しみです。

フェアバンクスツアー

石油パイプライン
 私たちがわくわくしながら到着したのは、なんとハイウェイ沿いの何の変哲もないスーパー。 えっ?ここにそのうまい寿司が?と戸惑いながらもドライバーについて行くと、スーパーの中の寿司コーナーへ。 そこには日本のスーパーでも見かけるようなパックに詰めた寿司がたくさん売られていました。えーっ!これが最高にうまい寿司? とちょっとがっくりしながらもよく見てみると、どれもネタが豪快に切ってあって、しかもよさそうです。
 ドライバー「さあ、ここのはどれを選んでもそんなにはずれはないぞ。日本で食べるよりもうまいんじゃないか」
そんなはずはないんじゃないかと思いつつも、ドライバー氏は早々と2つほど寿司パックを選び私たちを待っています。 しかし確かに見た感じネタの質や豪快な切り方はけっこううまそうです。 結局私たちもそれぞれ2パックづつ選び買ってみました。車に戻ってさっそく試食です。
 私たち「うまい!これはスーパーで売ってる寿司のレベルじゃない。これでスーパーは儲かるのかな」
 ドライバー「ハハハ、ここはアラスカだ。どうだい?日本で食べるのと比べて?」
 私たち「悔しいけどアラスカの勝ちだね。我々寿司好きだからここに住んでたら通うと思うよ」
というわけで、予想外だったその最高にうまい寿司を食べながら、フェアバンクス郊外のノースポールという町にある サンタクロースハウスに向かいます。店の中はクリスマス関連の商品でいっぱい。サンタの人形もいっぱい。せっかくだから何か 買っていこうと、私も民族衣装を来たおばさんがMerry Christmasと書いた垂れ幕を持った置き人形を選びました。
 そのあと、北極海のプルドーベイから、太平洋の港町バルディーズまで、1287kmを結ぶ長大な石油パイプラインを見学 しました。しかしこのアラスカの厳しい自然環境の中で、これほど長大なものを建設するのは並大抵の苦労ではなかったのだろうなぁ。
 最後にアラスカ州立大学の博物館を見て、飛行機の時間が来たので空港へと向かいました。 ここでお世話になったドライバー氏とお別れです。
 私たち「どうも、ありがとう。寿司はほんとうにうまかった」
 ドライバー「はっはっ、よかったらまた食べにおいで」
こうして私たちはバローへと旅立ちました。

最北の地、バロー到着

バロー空港ターミナル
 最〇端好きの私がとても気になっていたバローは、アメリカ大陸最北端、イヌイットの人々が住む町です。 私たちはこの地域の主要なキャリアであるマーク航空でバローへ向かいました。バローの空港はとても小さく、簡素な建物の 内部はまるでバスの待合所のようです。建物の外は橙色に光る街灯に照らし出されて、雪がしんしんと降り続いています。
 私「おお。ついにここまでやって来たか」
 T氏「なんか最果て感出てるな」
 私「ちょっとわくわくしてきた。まずはホテルにチェックインしておこう。確か空港内にホテル専用の直通電話があると 聞いていたが。。。」
と、周辺を探してみると、その電話は出入口付近の壁にかかっているのが簡単に見つかりました。 受話器を取るとすぐにホテルに繋がり、到着した旨を告げると空港前にいるタクシーで来てくれとのこと。 しかもお金はいらないからと付け加えています。そうなんだ、と受話器を置いて言われるままに外へ出てみると、 確かにタクシーが1台停まっていて外に出ていたドライバーが私たちを見ると、「ハーィ!」と笑顔で声をかけて来て 車に乗れと合図しています。一瞬、このドライバー大丈夫かな?と思いましたが、さっきの電話のこともあるのでとりあえず ドライバーのところへ行って説明しようとすると、
 ドライバー「ホテルだろ、大丈夫、心配ない。さあ、乗った乗った」
とドアを開けて乗るように合図しています。うーん。このタクシーはホテルお抱えなのだろうか?それにしても我々が どこのホテルへ行くのかわかるはずがないのに。。。そこで、私は、
 私「えっ、どこのホテルかわかってるの?」
 ドライバー「大丈夫、今この町で営業しているホテルは一軒しかないから。他にもあるんだけど今は休業中でね」
なるほど。というわけで私たちは宿泊先のホテル「TOP OF THE WORLD」へと向かいました。

ナイトツアーへ出発

ホテル併設レストラン
 ホテルに着くと、フロントには先に到着したと思われる日本人旅行者が何人かいてチェックインをしています。 こんな最果ての地でも日本人旅行者はいるんだと(たぶんお互い)思いながら、どちらからともなく挨拶を交わします。 そして私たちもチェックインを済ませると、その場に居合わせた2人の日本人旅行者と自然に話が始まりました。 1人はアメリカ大陸放浪の旅を続けるMさん(チェナで会ったMさんとは別人)、そしてもう1人は日本から来た学校の先生です。
 Mさん「。。。今晩、バスツアーが出るそうですよ。参加は無料だそうです」
 私たち「へぇー。おもしろそうですね。みなさん参加されるんですか」
 先生「私は行こうと思ってます」
 Mさん「私も参加するつもりです」
 私たち「じゃあ、我々も行こうかな」
というわけで、まずは腹ごしらえ。ホテル併設のレストランpepesへ行ってみます。店内はとても空いていて 我々しかいないのでちょっとびっくり。とても個性的な店員さんに料理を注文しつつ、
私「けっこう泊まってる人いたと思ったけど、みんなディナーどうしてるんだろ」
T氏「さっそく外に食べに出かけたとか。それとも食料持参か」
などと話していると料理が到着。食べたものは失念してしまいました。 その後時間まで部屋で一休みしてから、小型のバスに乗り込みナイトツアーに出発です。 参加者は意外にも日本人ばかり(だと思う)7,8人。 日本人専用というわけでもないだろうにと、ちょっとびっくりです。そしてガイド兼ドライバーは見るからに気のよさそうな イヌイットのおじさん。まずはオーロラ見物でもと、バスはのろのろ町はずれの海岸へ向かいます。 が、あいにくの空模様(雪が降っていた)でオーロラは見えません。しかし実はそんなことは最初からわかっていたのですが、 バスの中で冗談を飛ばしながら説明してくれるイヌイットのおじさんがとても楽しくて、それ自体がツアーの主流でした。
 そのあとは市内巡りとなり小学校やシティホール、雑貨屋などを回って説明をしてくれました。
 おじさん「どうだい、バローは?」
 参加者「うん、実に楽しい!最高だ!」
 おじさん「ハハハ。OK!(叫びながら) バローアラスカ!!トップオブザワールド!!ハッハッハ!」
こうしてバローの夜は楽しく過ぎて行きます。

北極海上を散歩

北極海上からバローの町を望む
 楽しいバローナイトツアーの後、私たちはMさんと先生の4人で一つの部屋に集まり酒宴を開くことにしました (青山さんの旅行記によると、1994年に禁酒条例が制定されたそうですが、このときは大丈夫だったと思います)。
 Mさん「。。。というわけで、バイトをしながら転々としてきたんですが、ビザの関係で一旦アメリカを出てこれから ヨーロッパへでも行こうと思ってるんです」
 私たち「へぇー、すごいですね。うらやましい。私も一度そういう旅をしてみたいものですよ」
 先生「ほんとですね、私にはそこまでの旅は出来ませんが、帰ったらこの素晴らしい旅の体験を生徒たちに伝えてやりたいですよ」
 私たち、Mさん「おっ、さすが先生」
この先生、ほんとに金八先生のような熱血漢でした。
 こうして楽しい飲みのひと時は過ぎていきます。みんな酒が回ってかなり盛り上がってきたとき、ふと先生が「酔い覚ましに海でも 見に行きませんか」と提案。みんな「いいね、いいね」とばかりに賛成し外へ出ました。北極海はホテルと道を隔てた向かいに 果てしなく広がっています。空はいつの間にか晴れて星が見えています。海といってもびっしり厚い氷に覆われて、 その上に雪が降り積もっているため、はっきりここから海とは判断できません。 ただ海岸線の道路を境に町と反対側は氷と闇の世界が広がっていて、遙か彼方に星明かりでぼんやりと浮かび上がる氷山が、 いたるところに不気味に盛り上がっています。
 私たち4人はしばらく海岸線(と思われる)に立って闇の彼方を眺めていましたが、やがて先生が、
 先生 「ちょっと歩いて見ましょう」
と海上へ足を踏み出します。
 私たち、Mさん「そうですね。せっかくだから記念にちょっとなら」
と私たちとMさんも氷の上を歩き出しました。しかし実はさっきのバスツアーでガイドのおじさんに、1週間前地元の人が ポーラーベアにやられたという話を聞いていたのもあり、先生以外は及び腰です。 加えて闇の不気味さがいっそう恐怖を煽り、さすがに途中まで来てT氏とMさんは引き返していきました。 しかし私と先生はがんばってもう少し奥へ。町の明かりはすっかり遠のき、予想以上にでかい氷山がよりはっきりと その形を現してきます。
 さすがにここらへんが限界かと思ったそのとき、ふと頭上を見上げると、空には満天の星とそれを 覆うようにゆらゆら揺れるオーロラが!美しい。何もない闇の大氷原で仰ぐオーロラ。あまりにも神秘的で美しく どう表現したものか。先生と私は言葉もなく、しばらくその場で立ちつくしていました。

バロー散策

バローの町散策中
 この時期のバローはほとんど1日中暗く、常に外灯が点いているので、昼夜の変化が乏しく時間の概念が崩れてしまいがちです。 昨夜も北極海上を散歩したのは、実は深夜であったということを後になって気づいてびっくりでした。 というわけで、翌日は遅めの朝食を取り、アンカレジへ戻る飛行機は夕方近くなので、それまで町を散策してみようと 思っていたら部屋のドアがノックされました。ドアを開けるとそこにはMさんの姿が。
 Mさん「おはよう。起きてました?」
 私たち「ええ、さっき朝食を取ってこれから町を散歩でもしようかと思っていたところです」
 Mさん「もしよかったら一緒に町見物に行きませんか?地元のにいちゃんが町を案内してくれるそうなので」
 私たち「えっ、ほんとですか。そりゃもうぜひ」
というわけで私たちとMさんの3人で、荷物をフロントに預けて町巡りへ出かけることになりました。
 ちなみに先生は午前の便でアンカレジへ戻るそうで、昨夜北極海の散歩から帰った後、硬い握手をして別れました。 帰国したら生徒たちに旅の思い出を熱く語られることでしょう。先生、お元気で!
 外は相変わらず暗く、この町は明るくなるときがあるのだろうかと思い、案内してくれるにいちゃん(イヌイットの人) に聞いてみたら昼頃少し薄明るくなるとのことです。
 さっそくにいちゃんの車に乗り込み、まずはほんとの最北端、ポイントバローに行きました。 岬といっても海を厚い氷と雪が覆っているので、どこまでが陸地なのかよくわかりません。
 にいちゃん「さあ、ここがポイントバローだ」
 私たち、Mさん「えっ。どこどこ?」
 にいちゃん「だいたいこの辺だよ」
 私たち、Mさん「うーん。まあとりあえず写真撮っとこう」
次にポーラーベアーの毛皮製品を作っている店へ。そこは外観は普通の家でしたが、中には大きな熊の毛皮や、 それで出来た製品があり、おばあさんが出てきて説明してくれました。熊製品には思わず触手がのびましたが、持っていくのが 大変そうなので断念。そのあと市役所の中にある展示室などを見て回りお昼になりました。
 にいちゃん「この町にも日本食の店があるんだ」
 私たち、Mさん「へぇー。それはすごい。どんなものがあるの?」
 にいちゃん「てんぷら、そば、すし、ラーメン。。。なんでもある。テリヤキハウスっていう店なんだが」
にいちゃんの思わぬ提案で昼食はテリヤキハウスという日本食の店へ。こんなところにも日本食の店があるとは。 ちなみに私はそこで寿司のセットを食べました。味は、。。。という感じでしたが、アメリカの最果てで食べる和食は少し感動。

最北の地を後に

 昼食後、ホテルへ戻ってきましたが、フライトまでまだ時間があります。それを察してかフロントのおじさんが 「部屋を使っていいよ」と言ってくれたので、ご好意に甘えて部屋で休息することにしました。部屋へ行こうとしてふと荷物を 見ると、フロントの脇に置いてあった私の荷物だけが見あたりません。あれっと思って、周囲を調べましたがどこにもありません。 心配になってフロントの人に尋ねると、このあととんでもないことが。。。
 結論を言えば、私の荷物はフロントのおじさんが午前の便で発った日本人組の荷物と間違えて運んでしまったということです。 しかもしっかり飛行機に積まれてアンカレジへ行ってしまったとのこと。おいおい!そんなことがあっていいのか。 って感じでしたが、その後のフロントのおじさんの対応もよく、結局私たちがアンカレジへ着いたとき事務所で受け取れるよう 手配をしてくれたので何とか一件落着でした。詳しくはハプニングで。
 そんなこんなで私だけ手ぶらでバローを発つことになりましたが、私の荷物は無事アンカレジに到着したとの連絡を受けたので、 それからは逆に非常に気楽になり、なんだか得したような気分になるから不思議なものです。
 バスの待合所のような空港ロビーまで、午前中ガイドを買って出てくれたにいちゃんが見送りに来てくれました。 ほんとにいいにいちゃんだ。私たちとMさんはにいちゃんと握手を交わして別れの挨拶をすると、飛行機に乗り込みました。
 私「いやぁ、バローは楽しかったなぁ。昨日の北極海の散歩は忘れられないなぁ」
 T氏「なかなか帰ってこないからポーラーベアにやられたんじゃないかとちょっと心配したぞ」
 私「いやぁ、悪い悪い。つい先生が先に行くものだから。ところでMさんはこれからどちらへ?」
 Mさん「フェアバンクスに行ってみますよ。別の旅行者から情報を仕入れたので、安宿を探してしばらく滞在してみようかと思って」
 私たち「そうですか。そしてその後、ヨーロッパへ行かれるんですよね。長い道中お気をつけて」
というわけで、私たち3人を乗せた飛行機はバローを後にしました。このフライトは極地域などではありがちな、 いろんな町に寄航しながら最終的にアンカレジに向かう便です。石油パイプラインの基点であるプルドーベイにも寄航しましたが、 暗くて周囲の様子はよくわかりませんでした。
 そしてMさんとは日本の住所を交換したあと、フェアバンクスでお別れをして一路アンカレジへ向かいます。 アンカレジでは本当に荷物があるかどうか少し緊張しながら事務所へ行くと、片隅に見慣れたスーツケースが。よかった!