アラスカ

大波乱、アラスカ鉄道 -旅立ち-

 翌日は今回の旅のメインの1つでもあるアラスカ鉄道に乗ってフェアバンクスに向かいます。 発車は8時30分でしたが、事情をよく知らない私たちはよい席を確保しようと勢い込んで朝早くアンカレジ鉄道駅へ 向かいました。しかし早すぎたため窓口はしまっていて誰もいません。しかも外はまだ暗く、乗客もいません。
 私「うーん。ちょっとはりきり過ぎたかな」
 T氏「せっかく早起きしたのに。でもここで待つしかないね。待合室に入れただけでもよかったよ」
しかたなく私たちは、外をふらついたり、鉄道車両を見物しながら時間をつぶしていると、ポツポツと人が集まってきて、 それに合わせたように窓口も開きました。さっそくバウチャーを提示してチェックを受け、やれやれと改札前の長いすに 座っていると、乗客が4,5人改札前に列を作って並び始めています。後から来る人々も次々とその列の後ろに 荷物を置いて並んでいきます。しかも、その乗客のほとんどの人たちが日本人のようです。 これは!日本人のサガというものなのか、それともここではこうして並ぶのが普通なのか、事情をよく 知らない私たちは、せっかく一番乗りで来ていて、よい席が取れなくては大変!とばかりに列の後ろにつきました。
 T氏「ここ、日本だっけ」
 私「ここだけ切り取るとそう思う」
さらにその後、日本からのツアーのお客さんもやってきて、あっちこっちで日本語が飛び交い賑やかになりました。 アラスカ鉄道って日本でこんなに人気があるとは知らなかった。しかしまあ、何とかよい席を確保することができました。
 出発時間までの短い間、みんな慌ただしく記念撮影などしていましたが、やがて定刻になりまだ暗い中、列車はゆっくりと 動き出しました。フェアバンクス到着予定は19時30分、11時間の鉄道の旅の始まりです。
 私たちもしばらくは席に座って雑談です。9時を過ぎてようやくあたりが薄明るくなってくると、森の合間にアンカレジを 出て初めて少し町らしい雰囲気が出てきました。聞くとワシラという町だそうです。ワシラを過ぎるといよいよ周囲は森林と 雪原一色となり、これぞアラスカという風景が広がってきました。それからというものはみんな車窓の雄大な風景に くぎ付けです。私たちもこの風景をしっかりと目と写真に収めました。鉄道の旅はまだまだ続きます。

大波乱、アラスカ鉄道 -マッキンリーに感動-

アラスカ鉄道からの風景
 列車はタルキートナの駅を発車したあとも、相変わらず森林と雪原の地帯をひた走ります。 この風景も非常に壮大でアラスカらしいけど、ちょっと見飽きてきたな。と、思っていたら、列車のスピードが徐々に落ち、 やがて停止してしまいました。こんな荒涼としたところでいったいどうしたんだろう!と思っていたら、アゴヒゲを生やした貫禄 のある車掌が、私たちの車両に入ってきて、
 車掌「左手にマッキンリーが見えます。写真を撮りたい方はどうぞ」
みんな一斉に左車窓に注目、右側の椅子に座っていた人もみんな左側に移動して、列車が左に倒れるのではないかとちょっと 心配になりましたが、私たちもデッキに出て、彼方に見えるマッキンリーを眺めます。おお!あれがマッキンリーか。と、 写真を撮り感慨に浸りました。このあたりはデナリ国立公園といって、夏には広大な公園内をキャンプやロッジに泊まりながら トレッキングする人々で賑わうところです。
 しばらくうっとりと眺めていると後ろから、「すいません、写真を取らせてもらえませんか」と日本語で声をかけられました。 はっと後ろを振り向くと、日本人旅行者が何人もベストアングルでマッキンリーをおさめようと、待ち構えています。
 私たち「あっ、これは、すみません。どうぞどうぞ」
私たちはいつのまにかデッキのベストポジションを占領していたようで、挨拶を交わしてその場所を交代しました。 車内の通路では、同じようにカメラを抱えた日本人旅行者の人たちが、ベストポジションを求めて歩き回っています。 外の非日本的な風景と、車内の日本的な風景のミスマッチがおもしろい違和感を出しているな!などと、変なところに 感心しながら席に着きました。そのあとも列車は2度3度フォトストップをしながらデナリ国立公園の玄関口となる駅へ 入っていきました。

(コーヒーブレイク)

 アラスカ鉄道は時々、何もない森林や雪原の上で停車します。またフォトストップなのかなと思って周りを見ても、 特に目立った風景もなさそう。どうしたんだろう?と思っていると、外で人が車掌と何か話しながら、大きな荷物を降ろしたり、 列車に乗り込んだりしています。どうやらこれがガイドブックにあったフラッグストップのようです。
 周囲を見渡す限り大雪原、大森林が広がり、こんなところにも人が住んでいるのかと、改めて驚いてしまいました。 このあたりに住んでいる人は、冬は週に一度走るアラスカ鉄道を利用して付近の町に買い出しに行くそうで、 この鉄道が大切な物資供給路になっているそうです。大自然で生活することは計り知れない苦労があるのでしょうが、 人によってはそれをカバーするだけのメリットもまたあるのでしょうね。

大波乱、アラスカ鉄道 -アクシデント発生-

 時刻はお昼過ぎ、列車はどこまでも変わりない雪原風景の中をひた走っています。隣ではツアーの団体さんが配られた 和風弁当をおいしそうに食べています。私たちはといえば、隣の団体さんの弁当の匂いをなるべく嗅がないように、 車窓の風景に神経を集中したり、雑談で気を紛らそうと頑張っていますが、腹は正直でグーグー鳴っています。 車内や途中駅で食料は売ってないことはわかっていましたが、フェアバンクスで美味しいディナーを食べればいいや、 と軽い気持ちで乗り込んだのが失敗でした。私たちは小声で、
 私「これは失敗だったかも。あと半日以上我慢か」
 T氏「サンドウィッチくらい買っておけばよかった。チョコとお菓子くらいだったら少しはあるけど食べるかい」
 私「いや、助かるよ。なんか俺たち、遭難した気分だなぁ」
 T氏「こんなところで遭難したら助からないぜ」
 私「確かに。とにかくフェアバンクスへ着いたらうまいもの食べよう」
そんなことを話していると、雰囲気を察したのか隣の団体さんのおばちゃんが、
おばちゃん「あんたたち、ごはんないのかい?飴とかクッキーくらいならあるけど食べるかい」
と声を掛けてくれました。
私たち「ご親切にありがとうございます。昨日飲みすぎてあまり食欲がなくて。お菓子類は自分らも持ってますので」
やせがまんして、あらぬことを言ってしまったものだから、お菓子も食べにくくなってしまってボロボロです。
 そんな話をしていると、列車が突然急ブレーキをかけて停止しました。えっ!どうした?今の止まり方は普通じゃない気がする。 停止してしばらくしても何のアナウンスもなく、車掌はといえば外で機関士らしき人と歩き回って何やらやっています。 ただならぬ雰囲気に乗客も何人か降りて見ています。そのうち、外に見に行った乗客の一人から、ムースを跳ねたようだ という声が聞こえてきました。えーっ!そんなことがあるんだ。どうやら列車が飛び出してきたムース(アラスカに住む鹿の一種) を避けきれずに跳ねてしまった模様。そのときは跳ねられたムースはどうしたんだろう?死んじゃったのかな?と ムースの心配をしていましたが、このあと自分たちの身にとんでもないことが起ころうとは、このときは知る由もありませんでした。 列車はしばらくして復旧作業が済み次第、再びのろのろと動き出しました。

大波乱、アラスカ鉄道 -忘れられぬ一夜-

-40℃、ネナナの夜
 それからしばらくは今までどおり、荒涼とした雪原を快調に走っていました。
 私「はぁ、腹減ったなあ。フェアバンクスまであと3時間くらいか。早く着かないかな」
 T氏「さっきの事故で遅れているだろうから、実際にはもっとかかるだろうなぁ」
 私「まいったなぁ」
などとぼやきながら窓の外を何気なく眺めていると、列車のスピードが再び落ちてきているのに気づきました。 こんなところにまた駅でもあるのか?と思っているうちに、みるみるスピードは落ち、やがて止まってしまいました。 ん?駅ではなさそうだし、何かまた嫌な予感、と思い外をのぞくと、また車掌と機関士が前の方でなにやら作業をしています。 外はすでに薄暗くなってきているのに、また何かトラブルか!不安が膨らみます。
 その後動き出すも少し走ると停止、というのを繰り返し、いよいよどうもおかしい!と思っていると、同じように不安を 抱いていた他の乗客から、「さっきムースを跳ねたのが原因で、列車のヒーターが壊れたらしい」という情報が。 そういえばさっきからちょっと車内が冷えてきたような。真冬のアラスカの山中で大丈夫か。動力が問題ないなら早く行った ほうがいいんじゃないか。などとみんなで口々に話していると、再び列車はのろのろと動き出しました。 しかしフェアバンクスまではまだ何時間もかかるはずで、その間にも車内はどんどん冷えていきます。
 そのうち車内にいても吐く息が白くなり、乗客が脱いでいたジャケットを着こんで寒がり始めた頃、列車はネナナの駅へと 滑り込みました。いったいどうなることかとみんなが落ち着かない様子でいると、車掌がやってきて、これより先へ行くのは 無理なので、ここでフェアバンクスからの救援バスを待ってくれと説明しています。
 かくしてアンカレジからフェアバンクスへのアラスカ鉄道の旅は、志半ばにして?終わりを告げました。 このあとネナナの駅前のバーで、乗客全員が救援バスを首を長くして待つことになります。(詳しくはハプニングで)