アラスカ

アラスカの予感

 私は自然が大好きで、日本では体験できないような大自然の中へ行ってみたいという気持ちを 常々持っていました。ある秋の日、会社で私の隣に座っている同僚のT氏と雑談をしているとき、 たまたま旅の話になりました。
 私「はあー、どこかこう、空気のいいところへ行ってのんびりしたいなぁー」
 T氏「そうだなぁ、北海道とか思いっきり大自然のあるところへ行きたいなぁ」
 私「北国かぁ、どうせなら思いきって真冬のアラスカなんてどう?大自然だし、極限の寒さ体験という のも魅力的だし」
 T氏「おお、いいね。おもしろそうだ。オーロラも見れるかもしれないし」
ということであっさりと、アラスカ行き決定。ここでアラスカの名を出したのは、 以前から行ってみたい場所だったので、半分冗談のつもりで言ってみたんですが、それがこんな簡単に 快い返事をもらえるとはちょっとびっくり。さすがはT氏。
 ということで、ツアープランは私が計画することになり、どうせ行くならこの際、最北端の地にも行こう、 記念に北極海の上も歩いてみたい、などなど、自分の希望を盛り込んでT氏に提案したところ、これまた あっさりOK。こうして私たちはスポーツショップで防寒具一式を買い込み旅は始まりました。

アラスカへ向けて、さあ出発!

 私とT氏とは東京箱崎にある東京シティエアターミナル(TCAT)に集合し、ここでチェックインを済ませて 成田に向かうことにしました。私たちは集合するとさっそく、今回利用するノースウエスト航空のカウンター へ向かいます。そしてチェックインカウンターの手前の手荷物検査機におもむろに荷物を通します。 と、いきなり、
 係員「すみません、こちらの荷物の中を見せていただけませんか」
それは、T氏のスーツケースです。ん?なんだ、T氏、なんかやばいものでも持ってきたのか!
 T氏「えっ、はあ。はい」
といってT氏は、いささか緊張気味にスーツケースを開けます。係員はそのスーツケースの中の物を しばらく調べていましたが、やがて、
 係員「はい、けっこうです。ご協力ありがとうございました」
と、丁寧に礼を言って解放してくれました。
 私「なんだったの?何か紛らわしいものでも持ってきたの?」
 T氏「いや、何も。もしかして使い捨てカイロを20個入れてたのが引っかかったのかな」
それまで、行きに荷物を調べられた経験がなかったので、ちょっと緊張しましたがまずは一安心です。 TCATにて出国手続きを済ませると、リムジンバスに乗り込み成田へと向かいました。
 成田空港では出発まで時間があるので食事&祝杯をすることにします。日本料理店に入り、 しばらくは食べられなくなるので少々奮発して豪華な料理を注文します。そしてビールで乾杯。 私たちはおいしい和食を前にほろ酔い気分で、
 私たち「すいませーん。ビールもう一本」
旅行を前にすっかり盛り上がっています。
 私「しかしこんなところで盛り上がりすぎて飛行機に乗り遅れたら洒落にならんな」
 T氏「それに機内ではいくらでも酒飲めるのに、何もここで目いっぱい飲まなくてもいいのにな」
などと、ぶつぶつ言いながらも上機嫌です。
 かろうじて乗り遅れるほど酔いつぶれはしなかったので、無事飛行機に乗り込みシートに着席、 2人とも大きいのでエコノミーシートはとても窮屈です。
 私「次回はビジネスクラスがいいね。まあ料金的に無理だけど」
 T氏「確かにこれで10時間はきついね」
 私「まあ、寝てしまえばあっという間だよ。さ、寝酒に一杯やろう」
と言い合う私たちを乗せて飛行機は離陸しました。

シアトル・タコマ国際空港

 うとうとした眠りから目覚めふと窓から外をのぞくと、はるか下の方に広々とした大地が広がっています。 とうとうアメリカ大陸にやってきました。しばらくして機内アナウンスとともに飛行機は下降し、 シアトル・タコマ国際空港に着陸です。時刻は朝7時過ぎ、アラスカへの乗り継ぎ便は午後の便なので、 まだかなり時間があります。
 私「これからどうしよう。次の便までかなり時間がある。街まで行こうか」
 T氏「しかしまだ朝早くて店も開いてないだろうし、もし遅れたりしたらまずいしなぁ」
 私「じゃあ、タクシーで回ってもらおうか」
 T氏「そりゃ、かなり金がかかるんじゃない」
 私「うーん、確かに」
ということで、私たちはひとまず空港内のカフェに入って一休みすることにしました。 みるとそこにはうまそうなバーガー類や、サンドイッチなどがメニューに並んでいます。 機内食でそれなりに腹は満たされていたものの、今のところ調子のいい私たちはすぐに食欲がわいてきます。 さっそくバーガーを注文し、ビールを取ってレジへ向かいます。レジで金を支払おうとしたら、 レジ係のおばさんに、
 おばさん「パスポートを見せてくれる?」
 私「えっ、このカフェは免税でもしてくれるの?」
 おばさん「いや、未成年にはアルコールは売れないんでね」
なるほど、つまり我々が未成年に見えたわけか!うーむ。うれしいのか、悲しいのか。。。
 バーガーとビールで腹ごしらえをした後は、空港内を徘徊してみることにします。暇に任せて、 空港ビルの外に出てみたり、ショップをのぞいたりして時間をつぶしました。 しかし、十分歩き回って時間がたったかなと思っても、こういうときは時間が経つのは遅い。 私たちは歩き疲れて搭乗ゲート付近の椅子にどかっと腰をおろします。 するとお互い機内ではあまりよく眠れなかったこともあってか、まもなく恐ろしい眠気が襲ってきました。
 私「やばい。眠い。2人とも眠ってしまったら、まずい。交代でちょっとづつ眠らないか」
 T氏「ああ、それはいい案だ。ちょっと眠すぎる」
ということで、交代で眠ることにしたんですが。。。
 私たちはあまりに眠すぎた!はたと気づくと2人ともが寝入ってしまい、しばらくの間意識が飛んでいました。 いかん、2人とも眠ったらいかん!と思いつつもまた意識が向こうの方へ。そんな感じで眠気と戦いながら 気がつくといつのまにか周りには人が集まり、もうすぐ搭乗時間になっていました。 念のため貴重品をチェックし、異常のないことを確認してほっと一安心。 しかし海外での(しかも空港での)無用心な行動には気をつけねばと反省です。

アラスカの玄関、アンカレジへ

 シアトルでの長い待ち時間を経て、ようやくアンカレジに到着したときには、あたりはもう暗くなっていました。 会社での雑談でふと思いたったのが始まりで、とうとうここまで来てしまった。感激!そう思いながらうきうきした 気分で到着ロビーに入ると、早速手配した送迎のドライバーと会うことができました。空港の外に出ると、 その冷たい空気と半ば凍った雪だらけの地面に、アラスカを実感します。またまた感動!
 送迎車には私たちの他に、同じ飛行機で到着した数人の日本人旅行者が乗っていて、それぞれの宿泊先ホテルまで 送ってもらいます。各ホテルで1人、また1人と降りて、私たちのホテルでも他に1人、旅人が降りました。
 私たち「こんにちは、お一人で旅行ですか」
 旅人「ええ、そうです。そちらはお二人ですか」
 私たち「そうなんですよ。このホテルは日本人は我々3人なんですかね。そうだ。我々はこの後食事に行くんですが、 よかったら一緒にどうですか?」
 旅人「ええ、喜んで」
ということで、後でロビーで待ち合わせて、3人で食事に出かけることにしました。
 部屋へ入るとそこはとても広く、どう見ても普通のツインルームではありません。豪華な角部屋で、 通常の部屋の2倍くらいの広さはあります。えっ、何これ?でももうお金は払ってあるし、 いいほうに転んだんだから、まあいいか。そこで一息ついた後、先ほどの旅人とロビーで落ち合い、 夜の街へと繰り出しました。
 街中は寒いせいか人通りはほとんどなく、橙色の街灯があたりを照らしてはいましたが、ネオンなどが少ないためか、 どことなく暗い雰囲気です。ろくに調べもせず出てきてしまったのでレストランの場所もわからず、 いろいろ歩き回ったあげく私たちの宿泊先とは別のホテルのレストランに入りました。 ピアノの生演奏のある雰囲気のよいレストランで、食事をしながら旅の話で盛り上がります。
 旅人「。。。というわけで、極地域を中心に回っているんですよ」
 私たち「いいですねぇ。私も極地域にはとても興味があるんですよ。次はグリーンランドやスバールバル諸島にも 行きたいと思っているんです」
 うまい酒に心地よい音楽、それに楽しい話。アラスカ最初の夜は、和やかに過ぎて行きます。