恐怖のホテルルーム -上海-
 冬真っ盛りの2月、私は友人の結婚式に参加するために上海へと向かいました。この友人は日本で知り合った中国人女性と 交際し、晴れて彼女の故郷である上海にて結婚式を挙げることとなったのです。式には私の他にもいつもの飲み仲間である 友人数名が呼ばれ、私たちは花嫁さんの実家の計らいで、その実家近くの中国人用のホテルに宿泊することになりました。 部屋はツインルームで私たちはちょうど4人いたので、隣り合った部屋に2人づつ分かれることにします。
 私とTさん「それじゃ、またあとで」
と、隣の部屋の友人と一旦分かれ、同室のTさんと部屋に入ります。
 私「ちょっと寒いな。ヒーターでも付けようか」
 Tさん「うん、そうだね」
上海とは言えその日は寒く、私たちは部屋へ入るとさっそくヒーターのスイッチを入れました。しかし。。。
 私「あれ?おかしいな?付かないぞ?」
 Tさん「え?付かないの?どれどれ。カチッ。うーん。確かに」
 私「これ、もしかして壊れてる?」
 Tさん「そのようだね。ホールにスタッフがいたから一応聞いてみようか」
 私「そうしよう。でないと滞在中ずっと寒い思いをしなきゃならないし」
ということで再びホールへ行き、そこにいた若い女性スタッフに英語で話しかけますが、ニコニコと愛想はいいものの 全くわからない様子で、中国語で何か言っています。しかたなくフロントまで降りて英語のわかるスタッフを何とか見つけて 聞いてみます。
 私「部屋のヒーターが入らないんだけど」
 スタッフ「ああ、今ヒーターは壊れてます」
 私「ええっ、じゃあどうすればいいの?何もなしだと寒いよ」
 スタッフ「修理を頼んであるんだけど追いつかなくて」
 私「いや、だから何か代わりのものはないの?」
 スタッフ「すみませんが、どうしようもないんです」
うーん、かんべんしてよ。部屋の窓は立て付けも悪くすきま風がけっこう入ってきます。これから何日かじっと我慢か、 と思いながらも、これ以上話していても埒があかないので渋々部屋に戻りました。
 私「いやぁ、まいったね。でもどうしようもないか。まあ、そんなに部屋にいることもないだろうし」
 Tさん「うん、どうせ部屋では寝るだけだろうから」
などと2人して無理やり納得しながら私はトイレに入りました。用を足す前に何気なく水を流すと。。。  私「うおぉーー!」 なんと、いきなり便器から水が溢れ出してきます。びっくりしてトイレから飛び出すと、私の悲鳴を聞いたTさんが、 「どうした?」と駆け寄ってきましたが、そのときはもはやトイレ周りの床はびしょぬれ。私たちはしばらく呆然と そこに立っていましたが、しだいに現実が戻ってくると顔が青くなり始めました。こいつはまずい!これから4日間も ここで過ごすのに、生理的欲求は押さえられない、トイレだけはなんとかしないと。
 私たちはさっそくまたフロントに向かいます。途中ホールではあの愛想のいい女性スタッフが、私たちを見ると笑顔で 挨拶してくれましたが、こちらは引き攣った笑顔で「ハーィ」と言葉を返すだけで、急いでエレベータに乗りこみます。 フロントでさっき話した人に再び、トイレだけは何とかしてくれと切羽詰った表情で頼み込んで、夕方までには何とかして おくということになりました。私たちはちょうどこれから出かける予定になっていたので、とりあえず一安心。 仲間が泊まっている隣の部屋のトイレを借りに行きます。
 私「ちょっとトイレ貸してくれない、こっちの部屋のトイレ壊れてて、水が爆発して床びしょびしょ。いやぁ、まいった まいった」
と、軽い感じで隣の部屋に入って行きました。ところが中にいた友人はまじめな顔をして、
 隣の友人「えっ、そうなのか。実はこっちも危ないんだ」
 私「えーっ、ほんとに。いや、このホテル大丈夫か!」
確かにトイレに入ると、流れこそすれほとんど水流の威力がなく、やはり同じような不安を抱えていました。
 そしてその日の夜、ホテルに戻ってみると、問題のトイレはきれいに床の水は拭き取られていていました。 おっ、宣言どおり直してくれたのかな、と、おそるおそる水を流してみると、水流は弱いけど何とか流れるようには なっていました。ちょっとあやしいけどとりあえずは使えるな。でもこれで4日間ももつかなぁ。 不安を抱えながらもその日は何とか持ちこたえました。しかし。。。
 翌朝、用を足す前に念のため水を流すと、
私「うおぉーー!」
これまた爆発!床は水浸しに...バスマットが被害を受けました。
 私「これは、もうだめだ。部屋を換えてもらおうか」
 Tさん「さっき隣の連中が別な部屋を見せてもらってたけど、どこも同じだって」
そうです。隣の部屋ももうほとんど使えない状態だったのです。私たちはその後またフロントスタッフに話しましたが、 もう期待してはいませんでした。それより使えるトイレをなんとかしなければという結論に達し、いろいろ探したあげく 1階に見つけました。ここのは何とか使えそう。しかしトイレの度にエレベータを利用して、わざわざ1階まで行かな ければならないとは。トイレのありがたさがよーくわかる体験でした。