空港迷走パニック(2) -モスクワ-
ようやくパスポートが無事手元に戻った私たちでしたが、安堵のときも束の間、このあと更なるパニックが!
パスポートが手元にある安心感をしみじみと実感した私たちは安堵感とともに、どっと疲労感が押し寄せてきました。
私たち「とりあえずこれで安心だな。今日はもう疲れた。早くホテル行って休もう」
私たちは一刻も早くホテルに行きたいという思いから、本来行くべきところであった入国審査ゲートへと足早に
向かいました。いや、向かおうとしました。しかし。。。
私「あれ?入国審査ってどこだっけ?」
友人「どこだっけって、えーと。。。おかしいな。ないはずはないよ。見過ごしたのかな」
などと言いながら、隅々まで歩き回って探しますが、どうしても見つかりません。あるのは搭乗ゲートに
免税店に出国審査。そう、私たちはそのとき知らぬ間に搭乗エリアにいたのです。しかし初めてのモスクワでしかも直前の
トラブルもあって、混乱と焦りと疲れで状況判断能力が確実に落ちていました。とにかく早く外に出たい!
そればかり考えて同じ場所を何度も行き来しながら出口を求めてさ迷います。
私「おかしい。もう行ける所はすべて歩いたはずなのになぜ入国ゲートがないんだ」
友人「うーん。確かにもう探すところは尽きたし。しかたない。また係員に聞いてみるか」
ということで通路を歩いていた係員を呼びとめ、
私「すみません。イミグレーションはどこにあるんでしょう?」
係員「イミグレーション?ああ、それならそこの階段を下に降りて行けばあるよ」
私「ああ、そうですか。どうもありがとう」
なんだ、階段を見落としていたのか。迂闊だった。やっぱり相当疲れてるな。と思いながら階段まで行くと、
えぇー!大丈夫か、この階段。
係員が教えてくれた階段は確かにあるにはあったんですが、階段との間は間仕切りで仕切られていて、向こう側に通じる
通路もロープが張られていて、どうみても通行禁止です。モスクワのシェレメチェボ第2空港の当時をご存知の方ならお分かりかと
思いますが、搭乗エリアと到着エリアの間は透明の間仕切りで仕切られていて、向こう側は見えるのですが、
自由に行き来できるようになっていません。さらにそのとき到着エリア側は到着機がないためか人の気配もなく、
階段の下は明かりが消されていて真っ暗です。
友人「これは、どう考えても行ったらまずいんじゃない」
私「うーん。確かにまずい感じだな。しかし、他に道はないし。。。困った」
友人「念のため別な係員に聞いてみよう」
もうそのときには、パスポートが戻ったときの安堵感もすっかり消えて、再び不安と焦りが立ち込めていました。
いったいいつになったらホテルでゆっくり休めるのか。
今度はすかさず友人が別な係員を呼び止めてさきほどと同じことを聞いてみます。
係員「イミグレーション?、ああ、それならこの下の階だよ。向こうに階段が あるからそこを降りて行けばいけるよ」
友人「しかし向こうの階段は真っ暗でロープが張ってあるんですが」
係員「うーん。よくわからないな。事務所で聞いてみてよ」
なんだ、この人、ほんとに空港の係員か。と苛つきながら、それでも今度は事務所付近にいた係員にもう一度聞いてみましたが、
やはり同じような適当な答えしか帰って来ず、もはやなすすべなし。ほんとに困った。
その時点で2人とも焦りと不安がすでに飽和状態に達しつつあり、たぶん顔は余裕の色がなく青ざめていたことでしょう。
私「どうすればいいんだ。このままでは空港で夜を明かすことになるぞ」
友人「うーん。どうしようもない」
私「こうなりゃしかたない。一か八か、ロープを超えてあの階段を降りて見よう」
友人「大丈夫か。あそこ真っ暗だぜ」
私「他にどんな手がある?それに係員はみんなあそこだって言ってるんだし」
ということで万策尽きた我々はついにロープを跨ぎ、人気のない真っ暗な階段に恐る恐る足を踏み入れます。
慎重に一番下まで降りると通路の先の方に明かりが漏れていて人影も見えました。
私「あそこが入国審査じゃないかな」
友人「とりあえずあそこまで行ってみよう」
まさに希望の明かりに向かって進み始めたそのとき、暗闇からヌーッと人影が現れました。私たちはハッとして息を呑み
ながらその人影に眼を凝らします。人影はゆっくりとこちらに近づき、やがてその姿がはっきりと認識できました。
それは軍服?のような姿で機銃を構えたロシア人だったのです。ロシア兵?目と鼻の先で本物の機銃を見てたじろいだ私たち
ですが、こちらも進退窮まる状況だったので、すかさずそのロシア兵に話しかけます。
私「すみません。イミグレーションはこっちでいいんですか?」
ロシア兵「なんたらかんたら、なんたらかんたら(ロシア語)」
まずい。この人英語が話せないようだ。それでも食いつき、
私「ここ、通れますか?イミグレーションに行きたいんですが?」
ロシア兵「なんたらかんたら、なんたらかんたら(ロシア語)」
やっぱり埒が明かない。しかも身振り手振りからどうもその通路は通してくれそうもなく、上へ戻れと行っているようです。
ああ!もう勘弁して。しかし、胸元で機銃を構えられている以上逆らうわけにはいきません。
しかたなくとぼとぼと階段を上がりもと来た場所へ戻ります。
私たち「ああ、もうどうしようもない」
時刻はもう夜の9時前、疲れもピークに達し、とりあえず椅子に座って絶望的な今後の対策を考えます。
しばらくボーッとしながら座っていた後、友人がポツリと提案を出しました。
友人「もう一度、階段降りてみない?」
私「は?だってあそこにはロシア兵が」
友人「ロシア兵にこの会話集見せて、係員にここを通れと言われたことを話して説明すればもしかしてわかってくれるかも」
私「うーん。そうだな。どっちにしてもこのままではまずいし、あの先はイミグレーションのようだったし、他に手はないし」
ということで意を決して再び階下へ向かいます。明かりの消えた真っ暗な階段を降り、恐る恐る「ハロー」と声を掛けますが
何の返答もありません。もう一度声を掛けます。しかし返答はなく人の気配もありません。
あれ?ロシア兵いないのかな?と思いながらゆっくり慎重に前へ進んでいきます。どうやら先ほどの兵士はどこかへ
行ったらしくほんとうにいないようです。よし!とりあえず突き当たりの明かりのところまで行ってみよう。
とずんずん歩いて行くと、やはりその明かりの場所はイミグレーションでした。それがわかった瞬間、よかった!助かった!
とその日2度目の安堵感がどっとこみ上げてきました。
その後は入念にチェックされたものの、イミグレーションは無事通過しようやく外へ。
それにしてもあのときのモスクワの空港はいったいどうなっていたのか?もうモスクワはコリゴリ。
と、そのときは思いつつ、数年後に再びモスクワを訪れたのですが。。。
ちなみに次に訪れたときには一般的な空港の手続と変わらず何も問題は起こりませんでした。