アラスカ鉄道衝突事故 -アラスカ-
アンカレジ-フェアバンクス間はもちろん飛行機の便もありますが、時間があれば北の大自然の中を
ひた走るアラスカ鉄道に乗って旅をすると、よりアラスカを肌で感じることが出来ます。
ただし冬期は週1本しかないので(私の旅行当時)事前にチェックして運行に合わせて行く必要があります。
私たちは、アラスカ鉄道は旅のメインの一つだったので、乗車当日は早朝にアンカレジ鉄道駅に行き、
わくわくしながら列車に乗りこみました。しばらくはアラスカの寒々とした大雪原を見ながら、ものめずらしさに
シャッターを切りまくっていました。左にマッキンリーが眺められるポイントでは、列車をストップして観光客のために
撮影タイムまで設けてくれて、すてきな計らいと思いながら喜んで写真を撮っていました。
その後も何度か撮影ポイントやフラッグストップで停車しながらのんびり楽しい鉄道旅でしたが、そのうち突然の急停車。
ん?今度の停車はちょっとおかしいなと思い外をのぞくと、車掌と機関士が先頭の方で何やら歩き回っています。
その後もなかなか動き出さないので、乗客の何人かが降りて、前の方に様子をうかがいに行きます。
これは何かあったんだなと察知し、私も見に行こうかなと思っていたら、帰ってきた乗客の1人が、
「どうも列車がムースを跳ねたようだ」と言って戻ってきました。ムースとはアラスカに棲む鹿の一種です。
あとで聞いた話ではムースは普段は山にいるのですが、冬はときどき餌を求めて下りてくるそうで、たまにこういった
事故も起こるそうです。
これからどうなるんだろうと思っていたら、復旧作業が済んだのか再び列車は動き出しました。やれやれ、ムースは
かわいそうだけどまずは一安心。そのときはその程度に思い、腹も減ったのでフェアバンクスに着いたらうまいものでも食べたいな
などと考えていたら、再び列車が停止。しかもまた乗務員が降りて何かしています。うーん。何かいやな予感が。
そしてまた発進。こんどは非常にのろのろとしたスピードです。
不思議に思った乗客が車掌に聞きに行った話では、先ほどのムースの事故で列車の暖房機が故障したということです。
その後もしばらくは、前進と停止を繰り返し乗務員が点検を行っていましたが、次第に車内が冷えてきました。
暖房はほんとに故障したみたいです。これはまずい。外は氷点下30度を下回る山の中です。
これからどうするんだろう?このまま我慢してフェアバンクスまで行くのかな。などといろいろな考えが頭に浮かび、
腹が減ったという感覚はどこかへ吹き飛んでいました。
そうしているうちにも車内はどんどん冷えて、乗客はみんなそれまで
脱いでいた上着を着込み、寒さで丸くなり始めました。窓は真っ白になり、端から霜が付き初めてきました。
おいおい、これはほんとにまずいぞ。こんなにゆっくり走っていて、フェアバンクスまであとどのくらいかかるんだ?
などと不安にかられていると、列車はフェアバンクスから約100km手前のネナナの村に到着しました。
ネナナの駅にすべりこんだ列車は、そこで停車するとしばらくして車掌が客車に入ってきて、
車掌「みなさんここで降りてください。駅前にバーがあるからそこでしばらく待機してください」
乗客「ここで列車を直すの?」
車掌「いや、列車はすぐには直せない状態なので、代りにフェアバンクスから救援のバスを要請しました。
今そのバスがこちらへ向かっている途中です」
乗客「バスはどのくらいでくるの?」
車掌「普通なら2時間そこそこで来られると思うけど、夜だし路面が凍結しているのでもう少しかかるかもしれない」
などとやりとりがあり、結局全員駅前のバーへ避難です。
ネナナの駅前は外灯もほとんどなく、暗くてあまり様子がわかりませんが、とにかく駅前にはバーが2件あります。
それよりもものすごく寒い!というよりものすごく冷えていて、鼻の中がパリパリとくっつくような感じがします。
乗客一同急いでバーの中へ入りました。人の話では外は氷点下40度近くまで下がっているとのこと。
これはこの温度を体験しない手はないとばかりに、私たちは再び戸外へ飛び出しました。よく観察すると吐く息が
ものすごく白く、空気が外灯の明かりに反射してきらきらして見えます。うーん。きれいだ。しかししばらく外に出ていると、
顔など無防備の部分が痛くなってきます。これはいかんとまたバーへ避難。そのバーは典型的なオールドアメリカンスタイル
のバーで、中央に置かれたビリヤードといい、木製の丸テーブルといい、みないい味を出しています。
中は乗客がみな避難してきたせいでとても賑やかです。
私にとって1つ嬉しかったのは、ずっと空腹で来たためハンバーガーとウイスキーにありつけたのはもう最高!
ようやく空腹を満たした後は、ウイスキーを片手にひたすら雑談をしてバスを待ちます。
しかしこういうときは待つ時間がすごく長く感じるものです。待ちきれなくなった人が何度も外に様子をうかがいに
行ったりしてました。結局そこで3時間近く待ち、ようやくバスが来たときには、パニック映画でやっと助けが来た
シーンのようにみんなバスに駆け出してました。そして一路フェアバンクスへ。
結局のところ、夜中の12時過ぎにホテルへ到着。なんとも疲れたハプニングでしたが、
おかげでいろいろ思い出に残る体験が出来ました。