リゾート闘病記 -シャルム・エル・シェイク-
 私はこれまで海外旅行中に何度か熱にうなされたことがあったのですが、今回のは最悪でした。
 シナイ山にいるころから頭が少しふらふらして体調が思わしくなかった私は、シャルム・エル・シェイクのホテルに 到着すると、夕食までまだ時間があるので部屋で一休みすることにしました。
 ホテルは典型的なリゾートホテルタイプで、広大な敷地の中にいくつものブロックに別れてコテージタイプの客室や レストラン、ショッピングゾーン、プールなどが点在しています。普通ならこれからどうして過ごそうかとわくわくするもの ですが今回はそんな元気はなく、レセプションから客室へ向かう途中も早く部屋に行って休みたい。けど、なんて部屋まで 遠いんだ。と心の中で罵しっていました。そんな私を察してか、
 奥さん「大丈夫?顔色悪いよ」
 私「なあに、ちょっと疲れがたまっているだけさ。一休みすればすぐ復活するよ」
とまあ、このときは自分でもほんとうにそう思っていました。1、2時間ほど休んで復活してから夕食を食べていろいろ 探検しよう。なんて気軽に考えていました。
 なんとか部屋に到着し、まっすぐベッドに直行したいところをぐっと堪え、まずはさっぱりするためシャワーを浴びます。 シャワーから出ると、バルコニーから奥さんが、
 奥さん「ねえ、見て見て!すごい眺めいいよ」
 私「えっ、どれどれ。。。おお、なんかリゾートって感じだね」
窓からは紅海が望め、白壁のコテージやプール、海辺のパラソルなどが見渡せます。ビーチリゾート感満載の素晴らしい 眺めでした。しかしこのとき私の体調は急激に悪化していて、立っているのも辛いような状態になっていました。
 私「はぁ、なんかシャワー浴びたらどっと疲れがでたみたい。ちょっとベッドで休むから、眠っちゃたら夕食前に起こして くれない?」
 奥さん「うん、わかった。なんか相当辛そうだね。早く休んだ方がいいよ」
もうとにかく横になりたい。すぐさまベッドに倒れこみます。なんかやばいなぁ。調子悪い。食欲もないなぁ。なんて考えて いるうちにほんとに眠ってしまったようです。
 奥さん「。。。だよ。。。そろそろ夕食だよ。どうする?調子悪いならやめとく?」
 私「ん?ああ。いや、大丈夫。いま用意するよ」
とは言ったものの、ベッドから起き上がった瞬間、頭はクラクラするし、胸のあたりがガンガンと痛い。眠る前より いっそうひどい状態です。これはやばいな。どうしよう。やっぱりやめといたほうがいいかな。でも奥さん1人で食事に行く のもなんだし、とりあえず行くだけ行ってみるか。まあ喉が渇いたし、フルーツなら食べられそうな感じだし。 とはぁはぁ言いながら用意して外へ出たのはいいものの、それなりの格好をしたにもかかわらず背筋に寒気が走り、 歩いていてもフラフラして最悪の状態です。
 普段の私なら食事は旅の大きな楽しみの1つですが、このときほど食事に行くのが辛いと思ったことはありません。 しかも運悪く??ビッグなリゾートホテルだけにレストランまでが遠いこと!エレベータや階段など高低差もあり、 しんどくてもはや奥さんと楽しく会話をする余裕もなく、朦朧としながらやっとのことでレストランの扉を開けました。 するとそこには豪華なビュッフェに盛られた数々の料理が並んでいて、大勢の人で熱気が溢れています。
 私は熱気と料理の匂いで胃の中が逆流しそうなムカムカをこらえてなんとか席に落ち着きました。でもとても食事を とろうという気にはなりません。とりあえず熱のせいで喉は渇くのでジュースを頼み、フルーツを取って食べていましたが、 胸のあたりがガンガンと痛くて座っているだけでも苦しくなってきました。これは本気でやばい。このままここにいたら ぶっ倒れて動けなくなりそうだ。そこでやむを得ず奥さんに、
 私「悪い。やっぱりちょっと先に部屋に戻ってるよ」
 奥さん「そうしたほうがいいよ。横で見ててもすごく辛そうだもん。私も一緒に戻ろうか?」
 私「いや、大丈夫。部屋で横になってればぜんぜん問題ないから。いっしょに部屋に来てもらっても寝てしまうだけだし、 ゆっくりしておいでよ」
 奥さん「ほんとに大丈夫?。。じゃあ部屋でゆっくり休んでて。私、下見しておくから明日よくなったら一緒に回ろう」
 私「うん。じゃあいい店見つけといてよ」
ということでレストランを後にして外へ出ます。しかし来るときも歩くのがやっとの状態で来たせいか帰りの道がわからなく なってしまい、ふらふら歩くうちにあまり見覚えのないところへ出てしまいました。まずい。これはかなりまずいぞ。 頭がくらくらして倒れそうだ。とりあえずレセプションまで行かねば。と、思っていたところに前方にガードマン発見。 よかった。
 私「すみません。レセプションへはどう行けばいいんですか?」
 ガードマン「レセプション。ああ、それならここを登って、あそこの建物を。。。」
 私「ありがとう」
 ガードマン「きみ、大丈夫か。具合悪そうだけど」
 私「大丈夫です。ありがとう」
ほんとは全然大丈夫じゃないけど、これでなんとか道はわかった。その後も壁や手摺りにつかまりながらなんとかレセプション を通り、途中で立ち止まって休みながらもようやく部屋に戻って来ました。ここで力尽き、ベッドに倒れこみます。 薬を飲まねばと気づくも再び起き上がる気力さえ尽きて、ベッドに倒れたまま横に置いてあったザックの中を引っ掻き回し ますが、なかなか薬が見つかりません。そのうち探す気力さえ尽きて布団に包まって寝てしまいました。
 。。。どれくらい眠ったか、フッと目が覚めたときには、部屋に戻ってきたときよりは少し体が楽になっていました。 胸の痛みもだいぶ治まっています。よかった!少し楽になった。ほんとによかった。このときほど健康のありがたさが身に しみたことはありません。体が楽になったことでいろいろと状況を考える余裕も出てきました。と、そのとき、とんでもない ことに気づき一気に顔が青ざめました。まずい!私は部屋に戻ったとき朦朧としながらも、部屋のカギを内側からかけ、 ご丁寧にチェーンロックまでしていたのです。そのときは考える余裕もなく、いつもの習慣で体が動いていましたが、 これでは奥さんは部屋に入れません。もちろんカギ自体私が持ってきたもの1つしかありません。 すぐさまカギを開けましたが、時計を見るともう9時近く。部屋に戻ってから1時間以上は寝ていたことになります。
 だいぶ熟睡してしまったようだ。奥さん、1度戻ってきたかもな。今、どうしてるんだろう?レセプションで事情を 説明してカギを開けてもらうように言ってるんだろうか?だとしてもチェーンロックがしてあったので簡単には入れない はずだ。
 いろんなことを考えていると心配になって、ゆっくり寝ている気分ではなくなりました。もちろんまだ体調は完治した わけではなく、立ち上がるとくらくらしてだるさが襲ってきます。でもとにかくレセプションまで見に行ったほうがいいかな。 いや、その間にすれ違ってしまったらまずい。うーん。どうしたものか。。。そうだ。玄関に張り紙をして探しに行こう。 と思いつき、岩石のように重い体を引きずって外へ出る準備を始めようとしたそのとき、おもむろに部屋の扉が開いて 奥さんが入ってきました。
 奥さん「あ、起きてたの?どう?具合は?もう大丈夫なの?」
 私「おお!戻ってきたんだ。今までどうしてたの?大丈夫だった?」
 奥さん「えっ、私なら食事の後、いろんなお店を下見してたんだけど、おもしろそうなお店たくさんあったよ。 明日体調がよくなったら一緒に見に行ってみようよ。ところで起き上がって今からどこかへ出かけるの?」
 私「ん?あ、いや、その。。。まあ、とにかくよかった!ははは!」
 奥さん「へ?どうしたの?なんか変だよ」
奥さんはレストランで話したように、いろいろ下見をしていたようです。とりあえず寝てる間に部屋には戻ってなかった ようで一安心。このあとホテル内のショップやカフェなど、探索結果をいろいろと聞かせてもらいました。そして明日こそは リゾートを満喫しよう決め、再び薬を飲んで早めに寝ました。
 翌朝、おかげさまで体調も戻り、奥さんが下見をしていたお勧めの店を回るなどして、ようやくリゾートを満喫 することができました。旅行中の体調管理はほんと気をつけねば。